Steamのセール週には、何も起きていなかった — 12本を週単位で測って見つけた「2回目の山」の正体

目次(12)
前回、Steam 12本を同じ日に測って「発火(出た直後にどれだけ人が来たか)」と「長持ち(今も遊ばれているか)」は別物だ、と書きました。
そのとき1行だけ触れて、埋めずに置いた穴があります。2回目の発火は、1回目より大きいことがある。
ではそれは、作れるのか。作れるなら、出したあとにもう一度チャンスがあることになります。個人で作っている人間にとって、これはかなり大きい話です。
同じ12本を、今度は週単位で測りました。答えは「作れない」でした。そして、作れない理由が予想とまったく違っていました。

結論から書きます
12本のうち6本で、発売直後より大きい月が後から来ていた
その月は11月に集中していた。12本のうち8本
11月=オータムセールだと思って調べたら、違った
2025年、Steamは自分でオータムセールを9月末に動かした。それでも山は11月に立った
11月末にあったのは Steam Awards のノミネート期間。その告知には、バッジの条件として「Reviewing」が入っている
そして山は1週で消える。PEAK は翌週に8%まで落ちた
つまり「2回目の山」の正体は、おそらく客が増えた山ではなく、レビューが書かれた山です。
これは自分の前回の記事にも刺さります。あの記事はレビュー数を発火の代理値に使っていました。その代理値には、こういう穴があります。最後に正直に書きます。
測り方
使ったのは Steam の公開エンドポイントだけです。鍵も課金も要りません。費用 ¥0。
store.steampowered.com/api/appdetails — 1.0 の発売日
store.steampowered.com/appreviewhistogram — レビュー数の推移
api.steampowered.com/ISteamNews/GetNewsForApp — Steam公式の告知(セールの日付)
定義はこうしました。
発火窓 = 1.0 の発売月と、その翌暦月
2回目 = 発火窓より後の各暦月
判定 = 2回目の最大 > 発火窓の最大
銘柄は前回の12本をそのまま使いました。今日の問いが立つ前に選ばれた並びなので、「2回目の山があった作品」を選んでしまう偏りが入りません。ここを選び直すと、この記事の数字は意味を失います。
踏んだ落とし穴を2つ、先に書きます
どちらも実際に踏みました。同じことをする人が必ず踏むので、先に置いておきます。
1. 粒度がバラバラに返ってくる。
appreviewhistogram は、作品によって「月ごと」と「週ごと」で返ります。12本のうち3本が週でした。気づかずに足すと壊れます。週は7日を暦月に日割りで按分してから足しています。
2. 「出た月」を最初のバケットにしてはいけない。
最初にこれをやって、12本中10本が「超えた」という結果を出しました。意味がありません。早期アクセスの小さな月と比べていたからです。Vampire Survivors の最初の月は11件しかありません。そこを基準にすれば、何だって超えます。
発売月は必ず release_date(1.0)から取ってください。この1点で結論が 10/12 から 6/12 に変わりました。
12本の結果

銘柄 1.0発売 発火窓の最大 その後の最大 月 倍
------------------ ------- ------------ ------------ ------- ----
Slay the Spire 2019-01 1,928 8,148 2019-11 4.23
Balatro 2024-02 13,110 22,280 2024-11 1.70
PEAK 2025-06 39,604 66,957 2025-11 1.69
Buckshot Roulette 2024-04 16,408 27,085 2024-11 1.65
Luck be a Landlord 2023-01 494 525 2023-11 1.06
Lethal Company 2023-10 93,694 94,914 2023-12 1.01
Tiny Glade 2024-09 5,012 4,536 2024-11 0.91
R.E.P.O. 2025-02 64,909 54,684 2025-11 0.84
Content Warning 2024-04 11,556 5,577 2024-11 0.48
8番出口 2023-11 3,014 836 2024-01 0.28
Vampire Survivors 2022-10 33,012 8,458 2022-12 0.26
Schedule I 2025-03 125,854 27,587 2025-05 0.226本が1.0を超えました。ちょうど半分です。
ただ、倍率より目を引いたのは右から2列目でした。11月が8本。12月が2本。
11月でない4本のうち3本(Vampire Survivors・Lethal Company・8番出口)は、いちばん多い月が発売の2か月後でした。発売直後の勢いの続きです(発売した年の11月は発火窓に入るので比べていません)。残る1本(Schedule I)は5月でした。
つまり、12本のうち8本が11月でした。
11月=オータムセールだと思いました。違いました
Steam のオータムセールは11月末です。公式告知で裏を取りました。
2023年: 11月21日〜28日
2024年: 11月27日〜12月4日
ここまでは合っています。ところが2025年の告知を見て、手が止まりました。
「Steamは頭がおかしいのか? 予定より2か月も早いぞ!」
そう、我々は正気ではないし、いつもより早い。だがこれは意図的だ。Steam オータムセールは今すぐ開催中だ。今から10月6日午前10時(PT)まで……
— Steam公式告知、2025年9月29日
2025年、Steamは自分でオータムセールを9月末に動かしました。
それでも、PEAK も R.E.P.O. も11月末に跳ねています。セールが原因なら、山は9月末に移るはずです。移っていません。
これは自然実験です。Steamが自分の手で、原因候補のひとつを別の月に動かしてくれた。
セール週に何が起きたか — 何も起きませんでした

2025年の PEAK を週単位で並べます。
週 レビュー数
---------- ---------- -----------
2025-09-22 3,367
2025-09-29 3,346 ← セール週
2025-10-06 2,875 ← セール週
2025-10-27 1,959
2025-11-17 3,895
2025-11-24 53,367 ← Awards週
2025-12-01 4,512PEAK の 2025年9月1日〜12月15日(16週)の中央値は 3,356.5 です。
セール週: 3,346。中央値の 1.00倍。普段の週と変わらない
Awards週: 53,367。中央値の 15.9倍
R.E.P.O. も同じです。セール週 1,157(中央値の0.65倍)、Awards週 29,935(16.9倍)。
Steamの全ストアセールは、この2本のレビュー数に何の影響も与えていませんでした。
11月末に何があったのか
2025年11月24日、Steam公式の告知はこれでした。
2025 Steam Awards のノミネートが開始されました。
ノミネートは12月1日まで。……少なくとも1カテゴリでノミネートすると2025 Steam Awards ノミネーションバッジを獲得でき、さらに次のことでレベルが上がります: 全11カテゴリでノミネートする/ノミネートしたゲームをプレイする/レビューを書く
— Steam公式告知、2025年11月24日
バッジの条件に「レビューを書く」が入っています。
PEAK の山の週は 2025-11-24。ノミネート開始日と、同じ日です。
そして山は1週で消えます
ここが決め手です。
PEAK: 53,367 → 翌週 4,512(8%)
R.E.P.O.: 29,935 → 翌週 2,130(7%)
新しい客が来たのなら、翌週も高いはずです。遊んでからレビューを書くまでには時間がかかるので、むしろ山は後ろに広がります。
1週で9割以上が消えるのは、客の山の形ではありません。「その週にレビューを書く理由があった人たち」が、書き終わって消えた形です。
だから何が言えるか
「2回目の発火」を作ろうとするのは、たぶん筋が悪い。
12本中6本で「発売直後より大きい月」がありましたが、その正体の多くは、自分がやったことではなくカレンダーでした。しかもそれは、売れた山ですらない可能性が高い。
もう少し実用的に言い直します。
11月末のレビュー増を、自分の施策の成果だと読まないこと。 その月に更新を出していたら、確実に誤読します
レビュー数を「売れた量」の代理値に使うときは、11月末を特別扱いすること。 少なくとも、その週を含む月をそのまま他の月と比べない
セールに期待しすぎないこと。 少なくともこの2本では、Steam全ストアセールの週に何も起きていません
言えないこと(正直に)
ここは弱点です。書かないと嘘になります。
1. 12本しかありません。 しかも前回と同じ並びなので、Steamの全体像ではありません。「12本のうち8本が11月」は12本の話です。
2. 月でしか返ってこない銘柄は、中身を分けられません。 週で見られたのは3本(PEAK・R.E.P.O.・Tiny Glade)だけです。この3本は全部11月の最終週でした。残りの銘柄は「11月」までしか分かりません。その月にセールがあったのか、更新があったのか、Awardsだったのかは、この測り方では分けられません。
3. 「レビューの山であって客の山ではない」は、まだ推測です。 根拠は「1週で消える形」であって、実際のプレイヤー数を測ったわけではありません。Steamの公開APIでは、過去の同時接続数を遡って取れません。ここを埋めるには別の道具が要ります。
4. 2025年の1年だけの自然実験です。 セールが9月に動いたのは2025年だけです。翌年また11月に戻れば、切り分けはやり直しになります。
前回の記事の穴
前回、私はレビュー数を「発火量」の代理値として使いました。今回の結果は、その代理値に穴があることを示しています。
救いは、前回測っていたのが発売月と翌月だったことです。11月末のAwards効果が乗るのは、たいてい発売から数か月〜数年後なので、前回の発火量の数字自体は大きくは動きません。
ただし前回、私は「2回目の発火は1回目より大きいことがある」と書きました。その1行は、今回の結果に照らすと書き方が甘かったです。大きくなっていたのは、多くの場合レビュー数であって、発火ではありませんでした。
数え方(生ログ)
全部そのまま再現できます。
測った日: 2026-09-23
銘柄: 前回の12本(PEAK / R.E.P.O. / Schedule I / Balatro / Slay the Spire /
Vampire Survivors / Buckshot Roulette / Lethal Company / 8番出口 /
Content Warning / Tiny Glade / Luck be a Landlord)
発売日 store.steampowered.com/api/appdetails?appids=<id>&l=english
推移 store.steampowered.com/appreviewhistogram/<id>?l=english
公式告知 api.steampowered.com/ISteamNews/GetNewsForApp/v2/?appid=593110&count=300
週→月 週の7日を暦月に日割りで按分してから合計
発火窓 1.0の発売月とその翌暦月の、多いほうの月
中央値 その期間の週次の median(sorted[n//2] を使わない)セールの日付は Steam公式の告知そのものから取りました(2023-11-21/2024-11-27/2025-09-29)。ノミネート期間も同じく公式告知(2025-11-24〜12-01)です。
取れなかったもの: 過去の同時接続数。公開APIは「今この瞬間」しか返しません。ここが埋まらないので、3つめの「言えないこと」が残っています。
自分の結論を壊しにいく(3点)
1. 「1週で消えるから客ではない」は本当か。
バイラルな話題(配信で一気に燃えるなど)も1週で消えます。形だけでは切り分けきれていません。ただしその場合、12本中8本が、年は違っても同じ11月に山を作る説明がつきません(週まで追えた3本は、3本とも11月の最終週でした)。
2. Awardsのノミネートは、人気作に集中するのでは。
します。だからこの12本(全部ヒット作)は、効果が強く出る側に偏っています。売れていない作品で同じ山が立つかは、この12本では分かりません。
3. セール週に何も起きていないのは、この2本だけでは。
その通りです。週で見られたのが3本しかないので、セールの効果を否定できるのは PEAK と R.E.P.O. の2本ぶんです。「Steamのセールは効かない」と一般化はできません。
測る道具はそのまま置いてあります。同じ12本でも、自分の作品でも、appid を変えれば動きます。もし11月末を特別扱いせずにレビュー数を読んでいたら、今日から直せます。